本サイトは、〈術数文化〉という用語の浸透、また、関連の情報共有の場として立ち上げたものです。
術数とは
「術数」(「数術」ともいう)とは、天文学・数学・地理学など自然科学分野と、易を中心とした占術が複雑に絡み合った学問です。そのため術数に関する研究は、科学と占術という二つの側面を持っており、日本では、天文学・暦学の側面からは新城新蔵・藪内清両氏などが、占術面からは安居香山・中村璋八両氏などが先鞭を付け、現在は直接的・間接的に彼らの薫陶を受けた多くの研究者により、幅広く議論がなされ、アジア学全体における関心も高まりつつあります。
そもそも、術数は前近代を通じて東アジアの国々に広く伝播し、それぞれの社会に深く浸透してゆくことで、それぞれの民族文化の形成にも強い影響を与えたものでありました。それは日本の伝統文化においても、平安時代以降、陰陽寮や民間宗教者の活動を通じ、国家の祭礼や年中行事として浸透し、今日に至る祭りや節句、さらには験担ぎのような社会慣習・通念として色濃く残されていることからも明らかです。そのため、従来研究されてきた固有の思想としての術数だけでなく、広く基層的な文化としても着目する必要があります。
〈術数文化〉とは
そこで、私たちは、東アジア史における術数研究をより一層進展させるために、〈術数文化〉という言葉を冠した「前近代東アジアにおける術数文化の形成と伝播・展開に関する学際的研究」という課題名(課題番号:16H03466、代表者:水口幹記)で、科学研究費を申請し、共同研究を推進してまいりました。また、2020年度からは「5~12世紀の東アジアにおける〈術数文化〉の深化と変容」(課題番号:20H01301、代表者:水口幹記)が採択され、研究を続けています。
両課題では、日本・中国を中心に、韓国やベトナムなどの隣接地域の研究者及びヨーロッパの東アジア研究の中心のひとつであるフランスの研究者を加えた汎東アジア的視座から、東アジア各国史・思想史・文学・文化史・書誌学・出土資料学・古文書学・宗教史・図像学・美術史・科学史など様々な分野のプロパーが参加し、学際的研究を行い、中国のみならず広く東アジア地域を対象とし、文化交流史・比較文化史の観点からその形成や伝播・展開の諸相を明らかにすることを目的として続けてまいりました。
私たちは幅広い文化的現象を統合する用語として〈術数文化〉を使用することにより、これまでの術数研究では看過されがちであった理論・思想以外の事象(文学・学術・建築物などへの影響や受容)をも正面から対象とすることができ、また、本用語の下、地域への伝播・展開の様相を通時的に検討することにより、各地域の独自性・特質を析出することが可能となり、中国中心の術数研究から東アジアの術数研究への展開が望めるようになり、今後の術数研究に寄与することができると考えております。